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千松信也さん(猟師)トークショー採録!

4/16(日)京都みなみ会館 
映画『アルビノの木』2日目トークショー
千松信也さん(猟師)×金子雅和(同作監督)


※千松信也さんのご許諾を頂いた上で、トークのほぼ全容を採録いたします。

ぼくは猟師になった
千松さんの著書:『ぼくは猟師になった』

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千松さん(以下、千):皆さん、はじめまして。千松です。
  ここ(京都みなみ会館)から車で30分ほど北に行った山裾に住んで、
  シカやイノシシを獲る猟をしています。今日の映画で言うと、僕は鉄砲を
  使わない罠だけの猟をしていますので、脚が悪かったおじさんの猟師
  (※長谷川初範さん演じる火浦)のほうですね、宜しくお願いします。

金子(以下、金):最初に、今回千松さんをお呼びしたきっかけを少しだけ
  お話いたします。
  この映画は昨年の7月に東京での劇場公開が始まったのですが、
  シナリオを書いている段階で、千松さんの書籍「ぼくは猟師になった
  を自分は拝読していて、罠猟についての知識や、千松さんの狩猟に
  対する考え方から影響を受けたり、気づきがありました。
  ですので完成した映画を見て頂きたい、と思っていたところ、たまたま
  知人の映画プロデューサーと千松さんに繋がりがあることが分かって、
  DVDをお送りして作品へのコメントを頂きました。
  まずお聞きしたいのですが、実際に猟をやられている千松さんは、
  劇映画(フィクション)の中で猟を扱っているこの作品を最初にご覧に
  なった時、どのように感じられたか、率直にお話頂けたらと思います。

千:はい、ちょっと緊張するんですけど(笑)。
  僕は映画については全然詳しくなくてですね、あんまり映画も見ない
  ほうなので、頓珍漢なことを言うかも知れないです。

金:いえいえ。

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画像左:千松信也さん 右:金子雅和
※写真提供:石井陽子さん

<有害駆除猟とは>

千:今回の映画はメインの部分としては「人間と自然」がテーマだと
  思うのですけど、それに絡む形として「有害駆除」というのが登場して
  いますね、これも説明し出すとややこしいんですけど。
  映画の中で「獲ったのにその獲物の肉も食わないで殺すなんて、本当は
  やりたくないんだ」みたいに、火浦が言っていたと思うんですけど、
  僕がやっている狩猟、多くの日本中の猟師がやっている狩猟っていうのは、
  食べるために獲るものです。それは冬場の猟期といわれるシーズンだけに
  行われるものなんですけど、最近、日本中でシカやイノシシ、サル、その他
  いろいろな動物が、一旦減っていたのが勢力を回復して、逆にどんどん数が
  増えてきて、それによって「獣害」というのが激しくなってます。
  それは農作物を荒らすとか、林業の木を枯らすとか、色んな害と言われる
  ものがあるんですけど、その有害駆除のための猟に、いわゆる食べるために
  獲物を獲る猟師が、現状ではほぼボランティア的な形で猟期以外のシーズン
  に従事するんですね。
  それがここ4~5年、国の政策が変わったりで、この映画に出てきたような
  民間の会社、NPOといったところが仕事を引き受けて野生動物を捕獲する・
  駆除するのが始まっていて、現在の日本の状況にすごく重なるような形で
  描かれているな、というのが、最初に(この映画を)見てドキドキしました。

  僕自身は、有害駆除は一切やらないんですね。何でか?っていうと、
  自分や自分の家族が食べない動物を殺す理由がない、僕がやりたい
  狩猟っていうのはそうではない、という考えでやっているので。
  ただ、農家の人が獣害にやられて困っているんだ、畑が全部荒らされて、
  来年も荒らされたらこの村から出ていかなきゃならない、っていうくらいに
  酷い被害があったりとか、あと、僕はシカとかイノシシを獲る以外にも、
  山菜とかを採ったりキノコ狩りに行ったりとか、四季折々の山の恵みを
  頂いているんですけど、今の日本のかなりの多くの地域でシカが増え過ぎて、
  森の植物がどんどん食べ尽くされて、すごい貧相な生態系になっている
  ということで、ある程度の数を獲らなければならない、そういう必要性、
  社会的要請もあって、その中で自分が有害駆除活動に参加するかどうかは
  常に問われているんです。
  僕なんかは、やらない、で割り切ってしまうんですけど、僕以外の、
  ほとんどの地域の猟師は、本当はちょっとやりたくない面もあるけど、
  でもやっぱり銃を持ってる、罠を持ってる、それを使う技術があるのは
  自分たちなのだから、社会的な活動として引き受けている。
  真夏の暑い山でも駆けずり回って、それに従事している人がたくさんいて。
  だけどやっぱり、そういう人たちと猟友会とかで話すと、本当は嫌だよね、
  どうせなら美味しく食べたい、っていう、負い目みたいなものを感じながら
  やる活動なんですよね、有害駆除っていうのは。
  それが今回の映画で、よく描かれているというか。
  (有害駆除を行う)現代の猟師にとって、これが正しい、っていうような
  理由って色々あるんですけど、それは結局、自分がやっていることを正当化
  するための理由づけなんです。今回の映画の登場人物は、みんながみんな、
  後ろめたさを抱えていて、常に大義名分を探しているというか。
  更に今日見ていて思ったのは、会話がかみ合っていないというか、みんな
  相手に喋っているというよりは、自分に言い聞かせるように喋ってばかりで、
  そういう不安感が、自分が今の日本の山の中で野生動物と関わる時に
  感じるものと、通じる部分があって、すごくドキドキしながら見ました。

金:ありがとうございます。猟についてご存知でないお客様のために少し
  補足させて頂くと、千松さんが猟をやられているのは、話に出た猟期と
  言われる(法律で定められた)、11月15日~2月15日ですよね。

千:はい、京都はいま、シカやイノシシだけ、数が増えているので1か月後
  (3月15日)まで延長があるのですけど、基本的には冬ですね。

金:あ、なるほど。有害駆除として行政などに頼まれてやる場合は、それ以外の、
  夏であったり春であったりするわけですね。

千:そうですね、(有害駆除は)猟期以外の期間に主にやるんです、
  具体的な被害の届け出があって、このエリアで何十頭獲って欲しい、
  などの依頼がくる。

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<罠猟師>

金:この映画は構想期間が長くて、2008年に企画をスタートさせて昨年に
  ようやく劇場公開されたんです。最初の企画の段階から、「自然と人間」
  という、すごく大きいのですが、そういったテーマに向き合いたいな、と
  思ったんですね。
  そのテーマを撮りたいと考えながら、「有害駆除」を取り入れるに至った
  理由を振り返ってみると、自分は東京生まれ、東京育ちで、都心だと
  やっぱり、身近に山とかはないんですよね。京都であれば少し行けば山が
  ありますが。
  千松さんのように実際に猟をやっていると、猟をして、自分の食べるものを
  自分の手で得る、己が食べるものへの責任を感じながら生きている、という
  意識があるのかな、と思うんです。
  一方で自分(や多くの都会に住む人)なんかはそういう関係性がすごく
  見え辛くて、極端に言えばスーパーで売っている肉であれ何であれ、
  元はと言えば、それも生きた動物だったわけですけど、そういった、
  自分たちが生きるために何かから(命を)奪ったりして糧を得ている、
  ということに全く実感がない、意識が希薄なんですね。
  でも、そういう意識を持たないで生きながら、環境保護とか、動物愛護を
  しなきゃ、みたいに言っている状況に、ネジレとか歪みを感じていて、
  それを作品の中で表現したいと思ったんです。
  千松さんは、最初に猟をやろうと思ったきっかけは、どういったことだった
  のですか?

千:僕は今年で(猟歴)16年、今42才で25才からやっているんですけど、
  子供の頃から釣りが好きだったりして、その影響で猟っていうのも
  出来ればやりたいと思ってたんですけど、山がないエリアで生まれ育った
  ので、そんなのは現実的には出来ないだろう、って思っていたんです。
  そうしたらたまたま、学生時代のバイト先の先輩、年配の社員の方が、
  何十年も罠猟をやっている、という話を聞いて、ぜひ教えて下さい、と。
  そういうきっかけですね。
  最近だと狩猟が、獣害の問題などで注目されているんですけど、
  当時はもう、斜陽産業というか、ぜんぜん誰にも見向きされない、
  老人だけがやっている世界で、何でそんなところに今どき来るんだ?
  という風に言われる感じだったんです。
  僕は昔から、動物がすごく好きで、動物と向き合って暮らしていきたいな、
  と思う中で、肉を食べているのに、それを誰かにお金を払って
  殺してもらって、捌いてもらって、飼育してもらって、
  食べるだけをやっているのが、自分の中で納得出来てなかったというか。
  肉を食べるという選択をする以上は、多くの人が嫌がるような立場の
  こともやりたい、ということがずっとあって、それで家畜とかを飼うことも
  やってみたり。
  自分が猟を始めた時期っていうのは、ちょうど日本の山にシカとかイノシシ
  が戻ってきて、どんどん増えていたタイミングだったので、そこの裏山に
  美味しいイノシシが歩いているなら、獲って食べようか、と。
  まあ貧乏な学生だったので(笑)、単純な感じもあったんですね。

金:狩猟には大きく分けて銃猟と罠猟がありますけど、千松さんは銃猟の免許は
  取られたことは・・・

千:ないです。

金:猟っていうと、多くの人の中では銃猟っていうイメージがありますよね、
  この映画のポスターでも銃を構えていますけど。(千松さんが)罠猟しか
  やらない、ということには、こだわりや、想いがあるのでしょうか?

千:鉄砲による猟っていうのは、本州では殆ど集団で、犬を使ったり、勢子って
  いう追い立て係がいたりして、追い上げて、この映画の冒頭シーンでも
  「沢に追い込んだ」ってありましたけど、だいたいグループでやるのに
  対して、罠猟っていうのは、基本的には一人、単独でやるんです。
  僕は集団行動が苦手だった、というのがあって、一人で気ままに山に入って
  いきたいな、という感覚が強かったのと、やっぱり自然の中で、自分も
  野生動物の仲間入りがしたいな、と。山の中で動物と向き合うとき、他の人間
  とのコミュニケーションっていうのは、余分な要素だったんです。
  あと鉄砲っていう、人間の英知が作り上げた機械を使うっていうのが、
  これは自分自身で作り上げられる物ではないので、そういう強力な機械を
  使うっていうことに抵抗感があって。
  その感覚は(猟を始めた頃も)今もあって。
  それに対して罠は、映画に出てきたタイプと殆ど同じなんですけど・・・

金:(千松さんの)本を参考にさせて頂いているんです(笑)。

千:そうですか、実は今は、直径12cm以上の輪(の罠)を設置しては
  駄目なので・・

金:(映画に出てくるのは)違法ですね(笑)

千:(足首を示して)ここまで入ることは、まずないんですけど、本当は。
  まあそれはいいんですけど(笑)。罠は(一般には映画に出てくるような)
  ワイヤーを使ってますけど、よくしなる木とか、切れにくい繊維とか、
  そういったものを使えば、自然物だけで再現可能なんですよね。
  なのでナイフくらいは欲しいですけど、それで加工すれば、山の中に
  一人ポンと置いていかれても、シカでもイノシシでも獲れる技術であると。
  そういう部分で僕は、罠猟に魅力を感じてやっているわけです。

金:なるほど。映画の中に出てくるのは「くくり罠」と言われるものですね。
  この映画はかなり早い段階で「猟師と白鹿」が出てくることは決めていた
  んですけど、やっぱり最初は銃を使う猟師しか考えてなかったんですね。
  そんな中、千松さんの書籍を読んで、罠猟って面白いな、と興味を持って
  取り入れたんですけど、もろに書籍から影響を受けた部分として、
  罠を木の皮と一緒に煮るっていうのがあります、映画の中の描かれ方は
  ちょっとリアリティがないのかも知れませんが。ああいうことは実際に
  やられるんですよね?

千:やりますね。(映画に出てくるより)もっとすごい大きい鍋で、それが全部
  埋まるくらいの大量の木の皮で煮込んで、真黒な汁みたいになるんです。
  (映画内の)あれだと、ダシを取っている程度に見えたんですけど(笑)、
  まあまあ、それはいいんですけど、そういう風にして臭いを消すという
  というのはやってます。(※ワイヤーの鉄の臭いを自然物で消すため)

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映画『アルビノの木』より

<人間の葛藤と、どうにもならない自然>

金:ところで、この映画はひとつの架空の山を舞台にしていて、実際の撮影は
  長野県、群馬県、山形県のあちこちで行って、それを編集でひとつの空間に
  見えるように繋げているんです。自分自体、山に行くのが好きなんですけど、
  この映画で主人公が山に入っていく描写と、千松さんが実際に猟をやる
  ために山に入る時の感じで、何か共通する部分、ないしちょっと違うな、
  と思った点はありますか?

千:まずはやっぱり、撮影されたのが北のほうですよね、だから生えている
  木々や、山の雰囲気がぜんぜん京都の山と違うので、そういう意味では
  外国の映画を見ているようで新鮮な感じで、日本の映画なんだけど日本の
  映画じゃないような。
  僕からもちょっと聞きたいと思ったんですけど、この映画には色んな形で
  動物を獲る人が出てきますよね。僕は最初に言ったように獲った獲物を
  食べる、そのために猟をしているんですけど、そういう猟師は出てこない
  ですよね。火浦は、普段はそうしているのかも知れないけど、
  今はお金のために仕事をしている。他の人たちは元々運送会社で、
  僕もいま運送会社で働いているので奇遇なんですけど(笑)、
  (有害駆除が)儲かると社長が仕事を取ってきて主人公のユクと、先輩の
  今守がやっている。この二人も少しスタンスが違いますよね。
  今守のほうは、殺すだけ殺しておいて、あとは放っておく(捨てていく)のは
  後味が悪いという感覚を持ちつつも、二人とも仕事として始めたので、
  いわゆる猟師ではないキャラクター。
  どっちかというと、山で獲物を獲って食べる、という猟師は、むしろ依木村
  (映画中盤以降に出てくる、白鹿を神として大切にしている村)にいそうな
  キャラクターなんですよね、そこに住ませるとわけが分からないことになる
  から、敢えて出さなかったのかな、とは思うのですが。

金:そうですね、設定を考えている中で、今の日本の現実ではまだビジネスライク
  まではなっていないとは思いますけど、ビジネスライクに有害駆除猟に
  関わっている主人公たちに対して、村には自分が生きる・食べるために
  獲る猟師、というのがいるほうが、対立項として分かりやすいな、とは
  思ったんですね。自分も千松さんが仰るような、食べるために獲る、
  という猟師のスタイルが良いな、と思うし、もしも自分が実際に猟に関わる
  のであればそうありたいな、と思うんです。
  ですがこの映画では、こういった生き方が良いんだよ、正しいんだよ、
  ということを提示したかったわけではなくて、それぞれの人物が、
  それぞれの生き方の中で葛藤していて、誰もが必ずしも自分が正しいと
  言い切れない中で、自己正当化しないと生きていけない、そういう現代人の
  姿を描きたかったんですね。
  村の生活は生活で、憧れるものはありますけど、実際には、現代日本で
  あの生活を維持することは出来なくて、映画の中でもこのままでは
  滅びてしまう、と描いている。そういった現代を生きる自分たちの葛藤を
  描きたかったので、あえて二項対立になるような形での猟師を出さなかった
  んです。

千:そうそう、僕が何でこんなにソワソワしているかって考えたら(笑)、
  自分の精神的な部分っていうか、気持ち的な部分は、あの村人のほうに
  寄っているんです。だから、トータルとしてストーリーを見たならばすごく
  理不尽なことをされただけ、っていう風に見るんですけど、その理不尽な
  行為が、普段自分がやっている猟という手段を使っている。
  だから自分の中での色んな立場とか、考えとか、それも全部説明出来るもの
  ではなくて、その時々の、例えば僕が町のコンビニで買い物をしている時の
  感覚であったり、伝統的な狩猟を残していきたい、と思う感覚であったり、
  とか、そういったものを、それぞれの度毎に、それぞれの人物に重ね
  合わせて、自分の内側を色んな形で見せられているような気がして、
  何か落ち着かないというか(笑)。

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千松信也さんのコメント ※クリックすると拡大されます

金:千松さんが下さったコメントの中でも、ご自身が猟をしていて、山の中で
  シカに出会ったときの「何とも言えない居心地の悪さ」をこの映画の随所で
  感じた、とありましたよね。
  ところで、この映画のラストシーンは、見た人の中でいろいろと解釈が
  分かれると思うのですが、千松さんはどのようにご覧になりましたか?

千:僕が見た感じとしては、結局どうにもならないんだな、みんな必死に変えよう
  とか守ろうとしているけど、なるようにしかならない、という感じですかね。
   (場内から笑い)

金:(笑)それに対しては、やっぱり何とかしなきゃいかん、と思いますか?

千:いや、僕は思わないですね。自然を守れたら守れたほうが良いんですけど。
  僕は実家が農業なんですけど、農業はあんまり好きじゃなくて猟のほうが
  好きなんですけど、それが好きな理由っていうのは、その場その場に
  あまりしがみ付かないで、獲物がいるところに行って獲る。
  丁寧に育てるんじゃなくて、山が育ててくれたものを搔っ攫う、という。
  それは自然がないと成り立たないことなんですけど、だからと言って、
  森に木を植えるとか、自然を守ろう、っていうように言うのも好きじゃ
  なくて、与えられた環境の中で、ここに獲物がいる、他の人間が
  獲ってない良い穴場がある、という場所を見つけながら暮らしていく
  のが僕は好きなので、ちょっと変わってて。
  あの結末、あんまりみんなは思わないですか?どうにもならんなあって。

金:自分としては、明確な希望があるわけではないものの、絶望的に
  終わらせたつもりではなくて、人間の思惑はどうにもならないけど、
  それを超えて大きな世界、自然があって、また再生したり、育っていく、と。
  (お客様でも)そのような解釈をされている方はいるかな、と感じてます。

千:日本の森も、人間が本当に滅茶苦茶にしているんですよね。
  パルプ材にするといって、広葉樹をみんな伐ってしまって、戦後は木材が
  足りないからスギ・ヒノキ・カラマツをどんどん植えろってやってきて。
  でもそれが、輸入木材で安いのが入ってきたら、林業なんて金にならんと
  なって、ほったらかしにされて。
  (※無計画な植林が、現在の害獣問題の発端のひとつだと言われている)

金:仰る通りですね。

千:でも、それだけ滅茶苦茶にされた森の中でも、いい場所いい場所を見つけて、
  シカもサルもイノシシも、みんなその状況を乗り越えて、害獣なんていう
  ひどい扱いを受けるくらいに数を増やしてきているわけで。
  彼ら(野生動物たち)は状況に文句を言ったわけではなくて、そうなったら
  そうなったで何とか生き延びていくしかない。

金:したたかに生きていくわけですね。

千:うん、そういう感じを(ラストから)感じましたね。

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※写真提供:石井陽子さん

<自然と向き合って生きる>

金:千松さんのお話からも、著作を読んでいても感じたのですが、
  大義名分として何かをする、ということではなくて、ご自身が
  「食べるために獲る」今のライフスタイルがお好きだし、個人で出来る
  こととして生活の中で、動物の命と向かい合ったり食糧を向かい合う
  ということをされていて、(自然・動物と人間の在り方を)みんなに
  啓蒙しよう、押しつけよう、とはしていなくて、あくまで自分一人の生き方
  としてやられている。そこが自分は面白いと思うし、共感される方が
  多くいるのかな、と思います。
  究極的には、(自然環境の問題に対して)ある政策をやったらやったで
  また別の問題が出てくるので「こうやったらこうなります」、
  「これが正しいです」という風には、自然に対する人間の行動は
  明文化出来ないものだと思うんですよね。
  かといって実際に問題は起きているので、何もしないのではなくて、
  個々人が自分の生であったり、他のものの生と向き合う、というスタンスで、
  常に考えたり行動するしかやりようはないんじゃないかな、と思って。
  なのでこの映画でも、有害駆除をしなければいけない、という現代日本の
  現実状況がありながらも、それに対して法律などの「システム」を変える
  だけでは解決できない、という面は暗に示したかったんですね。
  それは千松さんの著作や、今日伺ったお話とも共通する部分がある
  のではないか?と勝手ながらですが思って、今回この場にお呼びさせて
  頂いたんです。

千:僕がやっている狩猟の場合だと、害獣はいないんですよね。
  シカでもイノシシでも、山の中で肥え太っていると、大変僕にとっては
  有り難い、ということなので。僕はさっき言ってくれたように啓蒙するような
  気はないんですけど、僕自身の生活スタイルが、シカとかイノシシが
  いなくなっては困るものになっているので、自然が無くなっては困る。
  僕(のライフスタイル)も一つの例に過ぎないですけど、山なり自然なり
  動物がそこにいてくれないと困る(という実感を感じる)ようになって
  初めて、自然というのは守られていくのかも知れないですね。
  町で暮らしながら、奇麗な自然を残しましょう、というのは、あんまり
  説得力がないかな、と思います。

金:分かりました。
  もっとお話したいのですけど、残念ながらお時間になってしまいました。

千:アルビノ種の話もしたかったですね。
  (※上映前の打ち合わせで、千松さんの田舎ではアルビノの蛇=白蛇
  への信仰があった、という話が出ました。これも日本人の宗教観や本作の
  内容と関連して、とても面白い話だったのですが、時間が足りませんでした)

金:千松信也さん、貴重なお話を、本当にありがとうございました。
 (お客様よりの拍手で終演)

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<千松信也(せんまつ・しんや) プロフィール>
1974年兵庫生まれ、京都在住、猟師。
京都大学文学部在籍中の2001年に甲種狩猟免許(現わな・網猟免許)
を取得した。伝統のくくりわな、無双網の技術を先輩猟師から引き継ぎ、
運送業のかたわら猟を行っている。鉄砲は持っていない。
2008年『ぼくは猟師になった』(リトルモア刊、現在・新潮社文庫)、
2015年『けもの道の歩き方』(リトルモア刊)を出版。
狩猟にまつわる講演等も行う。

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4月16日(日)京都みなみ会館にて。上映後行われたトークを採録
文責:kinone ()内の補足・注釈は金子によるもの

※トーク中写真は、当日京都までご来場下さった鹿写真家・石井陽子さん
 よりご提供頂きました。
 記載のないものは、京都みなみ会館よりご提供いただいてます。

映画『アルビノの木』は5/27(土)~6/2(金)横浜ジャック&ベティにて上映。
連日17:45~本編86分 詳細は→コチラ

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